四季折々

体験した作品の備忘録

ソナチネ

 一風変わったヤクザ映画として噂のこの作品、ふと手に取るきっかけがあったので視聴

 そもそもヤクザ映画自体見たことがないので王道を外れたと言われてもピンとこないので十全に体験できたとは言えないけど、作品自体はめちゃくちゃすごかった。最初から最後までいつ弾けるかわからない緊張がずーっと続いてて、息をつく間もないとはこのことだと思った

 作品のあらすじとしては親分の兄弟分を支援するために沖縄のある組の応援に送り込まれた主人公とその手下が、近々手打ちになると聞かされていたのに猛攻を受けて隠れ家へ逃れ、今後どうしようか…と息をひそめるというもので、想像していたような銃を使ったドンパチは最初と最後の10分にやった程度。じゃあ中盤は何をしているかというと相撲取ったり踊ったり遊んで時間をつぶしている

 ここだけ聞くとのんびりしているように見えるけどとんでもない、手伝いに来たのに何もできず逃げ隠れして、出来ることが何もないから遊んでとにかく時間を潰す、その時間を潰している間すらいつ襲われるかわからない緊張。この作品はいつ何をしていても次の瞬間死人が出るんじゃないかという緊迫感が一貫して存在する。組長格のおっさん二人が浜辺に落とし穴を掘って部下をひっかけて遊んだ夜に同じ場所で女が強姦されて加害者を射殺し、フリスビーを投げて遊んでいるところをヒットマンが射殺し、たまたま死角にいた主人公と連れは目の前に仲間の死体が出来上がっても身じろぎ一つ、声一つ出せずじっとこらえなければいけない。張り詰めた静と動の切り替えが劇的で視聴者もだらだらと見られるシーンがない。最終盤、エレベーターに乗り込んで探していた人間と邂逅するシーンなんか息苦しくなるほど張り詰めていて恐ろしかった

 そもそも大の大人が、ましてヤクザが暇つぶしに遊んでいるシーン自体がもう何とも言えないユーモアとやるせなさでいっぱいになっている。そしてこのやるせなさというのがまたこの作品全編を通して主人公に付きまとう

 主人公はヤクザなんてやめたくなっちまったなと沖縄へ行く前からぼやくほどうんざりしていた。それでも親分のいうことだからといやいやながら従えば、これは裏で親分と抗争相手の親分とで組んだ策略であり、組長もろとも邪魔な組を消し去るついでに主人公のシノギを奪ってしまおうという利益だけのために切り捨てられたのだと終盤発覚する。作中の描写から主人公はどこか狂った異常者のように描かれているが、事情だけ並べればただただ一方的に使い捨てられる被害者なのだ

 最後、主人公は自分を陥れたものをことごとく殺した後、連れの女が待つ隠れ家の近くまで帰るも、結局途中で車を止め自殺してしまう。このラストは何のセリフもモノローグもないので受け止め方が色々あるのだろうけど、個人的には何もかもなくして疲れ切った、あるいはもういいやとうんざりしたのかなと思っている。仁義もへったくれもなく利益最優先の親分に振り回され、その親分すら殺し、ヤクザ=自分そのものが疎ましくなったのかもしれない

 演出といえば音楽もまた素晴らしく、全体的にとにかく静かで主張しないが、特徴的なメインテーマを遊んでいるシーンで使ったり人が死ぬシーンでのどかな三味線を鳴らしたり、ここぞという印象の与え方が上手かった

 総じて、仁義や兄弟分だなんて熱い言葉の下行うドンパチではなく、最初から最後まで冷たく息苦しい殺しあいの作品だった。気を抜けるシーンがないので、視聴するには集中力と体力が十分に必要だ