四季折々

体験した作品の備忘録

ペーパー・ムーン

 古めかしい音楽とともにスタッフロールが流れて始まり…白黒!?白黒映画なんて七人の侍ぐらいしか知らないよ…と思ったら、流石に撮影当時はカラーだったけど作中設定に合わせてあえて白黒にしたのだとか。なるほどなー。字幕すら古めかしいからそんなに昔の作品だったのかと勘違いしちゃった

 主人公は聖書を売り歩くちんけな詐欺師で、昔バーでかかわった女性が死んだと知って葬式に立ち会ったところ、その人の娘を叔母のところまで連れて行くように頼まれるというスタート。この娘が年のわりに随分冷めた目で世間を知ってて頭がいい。娘を使って200ドルを他人からだまし取った主人公が車を整備して余ったお金で電車で叔母の家まで行けるようチケットを購入し、待ち時間に喫茶店に入るのだけど、自分を使ってだまし取った200ドルは自分の物だと主張し、あえて衆目を集めるように金を返せとわめきたてると、主人公はいらいらしてテーブルを叩き反論ととんでもなく険悪な空気になり、最終的に叔母の家まで車で送り届ける道中で200ドル回収する運びに。その前に何回か主人公が自分の父親でないかと聞いてるので、自分が叔母以外身寄りのないと認めたくないないし自分の父親と確かめたいの一心で無理やり同行したように見える

 しかしそんな口論した後無理やりついてきたら主人公からすれば邪魔者であり、私の事嫌いなんでしょと聞かれてああ嫌いだよと即答するなどとんでもなく嫌な雰囲気に。宿に泊まって娘が煙草を吸ってるシーンも火事になるから子供が寝床でタバコを吸うなとしかりつけたりラジオを消せだのととにかくとげとげしい。まぁ子供が煙草を吸うなはその通り…というか本当に吸ってるんだけど当時は演技のためなら許されたんですかね…

 そんな関係に転機が訪れたのはある家で主人公の詐欺が発覚しそうになった際、とっさに顔を出し上手くサポートしたことで、一緒に上手くやったという達成感?あるいは共犯という仲間意識からか珍しく笑顔になる二人。そこからは主人公主導で様々な詐欺を仕掛けて金を稼いでいく。しかし貧乏人からは金をとらず金持ちからは破格のふっかけをする娘に値段は俺が決める、こんな法外な値段言ったらすぐにつかまると再びガチ口論。それでも主人公が女性と酒を飲んで帰ってきた夜には隠れてネックレスをつけたり香水をびちゃびちゃつけてみたりと捨てられないよう努力する姿がなんとも滑稽で涙ぐましい。子供とは思えない聡明さと年相応の感情

 そんな二人の道中に異物が混入する。主人公が祭りでストリップを魅せてたダンサーを送り届けることを申し出て、その付き人含めた4人の道中になることに。一緒に写真撮る予定をすっぽかしてまで何度も通ってただけでも腹立たしいものをそのダンサーが同行すると聞き自分の居場所がなくなると焦った娘が反発するも、ダンサーを嫌っている付き人と意気投合したり自分が娘に疎まれていると理解したダンサーにしばらく置いてちょうだいなと本音で語り合ったり案外悪くない関係になれそうな気が。まぁせっせと稼いだ金をアホみたいに服や車につぎ込むようそそのかしてるところ見たら腹も立つだろうけど…。個人的にはいちいち度を超えた皮肉を混ぜたりあてつけのように荷物を乱暴に叩きこむ付き人はギャグとして面白くてすきだった

 そんな4人の旅が終わるのはとあるホテルに泊まった際の事で、受付係がダンサーに見とれていることに気づいた娘が周囲の人間全員巻き込んだ策略を考案して見事ダンサーを追放することに成功する。癇癪で追い出すんじゃなくて他人を動かして主人公に追い出させるよう仕向けるのが末恐ろしいよ…。雨の中2人になった車内で主人公が男を騙す女になるなよって娘に言い聞かせるのがまた

 終盤になりとある町で酒の密売人を騙した2人は保安官に追われることになる。というのもこの保安官、密売人の兄弟だったのだ。うーん悪徳。金はどこに隠したと尋問されるも娘が捕まる前にとっさの機転でニット帽子に挟み込んでいたので見つからない。とっさの機転の利き方がすごい。しかも中を検めるためにぐちゃぐちゃに散らかされた荷物を片付ける際に車の鍵を見つけてこっそり持ち帰るなど冷静沈着。トイレ行く振りをして逃げだし、カーチェイスの末何とか逃亡するも、後日隣町で発見されて結局有り金全て巻き上げられてボコボコにされる主人公。当時の法律だと町が変われば逮捕は出来ないのね

 そしてラスト、有り金もなくなった主人公はせめて約束だけでも果たそうと叔母の家まで娘を連れていく。問答の末結局叔母の家を訪ねた娘は、主人公と一緒にいるときに空想していたピアノやジュースのある穏やかな家に迎え入れられるも浮かない表情。一方主人公も1人になった車内でボーっとしていると隣の席に何かが置いてあるのに気づく。中を見るといつか娘が一緒に撮ろうとせがんだ場所での写真が入っていた。ジャケットだと2人で写ってるけど結局作中では一緒に撮らなかったな。写真を眺めていた主人公の耳にふと何か聞こえてきて振り向くと、娘が走ってきていた。これ以上一緒にいるのはごめんだと言っただろうと仕掛ける主人公にまだ200ドル返してもらってないとぶつける娘。有り金巻き上げられた主人公が返せるわけもなく、にらみ合いの末に帽子を地面に叩きつけ認める主人公。2人はブレーキがろくに効かないおんぼろが勝手に走り出したのを見て慌てて乗り込み、どこまでも続く一本道へ姿を消すのだった

 映像特典で監督が普遍的なテーマを扱っていつの時代に見ても楽しめる作品と言うだけあって今見ても面白かった。道中でのやり取りや行動がコメディとして面白く、二人の関係の変化がロードムービーとして面白い。主人公と娘の年齢差を感じさせないやり取りはもちろん、道中で騙してきた人々や付き人にダンサーと、関わる人々との物語もまた大事な要素で、2人を主軸にしつつその他を添え物で終わらせなかった。結局主人公が父親なのかどうかは最後までわからないままだけど、冒頭で流れたIt's only a paper moonの語る通り、認識が大事であって、血がつながっているかどうかなんて些末な問題なんだろう