四季折々

体験した作品の備忘録

ナオミとカナコ

 大手デパートの営業を務めるナオミは彼氏もいなく、友人もほとんどいない状況でつまらない仕事を毎日こなす灰色の日々を送っていた。そんな中数少ない友人の1人であるカナコがDVに苦しめられていることを知った。自身の両親もDVを行っているのを間近で見ていたナオミは早々に離婚したほうがいいと何度も促すが、恐怖でふんぎりがつかないカナコ。歯がゆく思っていたナオミはある日業務で関わった中国人の明美のしたたかさやたくましさに影響され、カナコの夫を“排除”することを思いつく…といったお話
 この作品は表題通りナオミとカナコが主人公。前半のナオミパートで状況説明から実際に夫を殺害して隠ぺいするところまで。後半のカナコパートで少しずつ不審な点を突かれ追い詰められていく
 発端こそDVだが本筋は完全犯罪の計画と追い詰められてからの逃亡シーンのサスペンスであり、同時期に読んだ「手のひらの砂漠」もDV、夫の殺害と抜き出すと共通してる部分もあるけど全く別物。また前半のナオミパートでは単なる暴力装置として書かれていた夫だが、カナコパートで夫の家族や職場の人間が登場することにより彼も弱さを抱えたただの人間であると幾度も描写される。終盤犯行をほぼ感づいた夫の妹の「暴力も振るったかもしれない、ひどい人間だったかもしれない。でも殺さなくてもいいじゃない!」といった趣旨のセリフにある通り、確かにDVを行うどうしようもない夫ではあったが、カナコが決意して離婚等正規の手段に頼れば、ナオミとカナコにはまた違う未来もあったかもしれない
 本作の真骨頂は何と言っても最後の逃亡シーン。数々の偶然や必然から事実上犯行が完全に見抜かれ、任意同行という形で警察に連れていかれたカナコは、ナオミの機転と明美の協力で一時帰宅することができたが、翌朝再び署へ行かなくてはならない。逮捕まで秒読みという状況でナオミとカナコは国外への逃亡を決意する。しかし逃亡を事前に想定していた夫の妹と私立探偵が待ち構えていた。二人は追跡を振り切り空港までたどり着けるか…という展開。最後の最後までどちらに転ぶか予想できなかったので、ラスト数行まで文字通り息もつかせぬ状態。読み終わって思わず大きく息を吐いてしまった
 最初は人生に退屈していたナオミ、絶望していたカナコが夫の排除と隠ぺいという目標を持つことで不思議なほど高揚し、たくましくなっていく。特にカナコはナオミが目を見張るほどはっきりと意志をもって人生を生きていこうとする。明美が体現しているように、女性は夫に頼るだけの存在ではなく、いくらでも自分で人生を決めて切り開くことができるというのが本作のテーマなのかと思った